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福岡地方裁判所 昭和33年(わ)736号 判決

被告人 立石利雄 外一名

主文

本件公訴はこれを棄却する。

理由

本件公訴事実は起訴状記載のそれと同一であるからそれをここに引用する。

ところで右起訴状の記載によれば、本件公訴は福岡区検察庁検察官事務取扱検事羽田辰男が福岡地方裁判所に提起したものであることが明白である。およそ公訴は検察官がこれを行うものではあるが(刑事訴訟法第二百四十七条)、検察官はいずれかの検察庁に属しその属する検察庁に対応する裁判所の管轄区域内においてその裁判所の管轄に属する事項について刑事につき公訴を行いその他法令によりその権限に属させた事項を行うのであつて(検察庁法第五条第四条)、いまこれを本件の場合についてみれば、福岡区検察庁検察官は福岡簡易裁判所に公訴を行うのであつて福岡地方裁判所に公訴を提起することはできないのである。換言すれば福岡地方裁判所に公訴提起することのできるのは福岡地方検察庁検察官でなければならないのである。

しかるところ本件公訴は検事羽田辰男が福岡区検察庁検察官の資格において福岡地方裁判所にこれを提起したものであるから違法というの外なく結局公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに該るから刑事訴訟法第三百三十八条第四号によりこれを棄却すべきである。

なお公判立会検察官は昭和三十三年九月十三日の第一回公判期日の冒頭において前記起訴状中福岡区検察庁とあるを福岡地方検察庁に又検察官事務取扱検事とあるを単に検察官検事と訂正し以て福岡地方検察庁検察官検事羽田辰男が福岡地方裁判所に本件公訴を提起したものとする旨申立てたが、その申立理由が若し誤記によるものとするならば、前記起訴状の該記載自体余りに明確に過ぎて誤記と認める余地なく且つその事項は本件公訴の有効無効にかかわる実質的に重要な部分に属しこれを右申立の如く訂正を許すときはその意味内容、法的効果を全部的に変改することとなるから到底単なる誤記を以つてしてはこれが訂正は許されないものというべく又その申立理由を訴訟条件の追完の意味に解するとしてもこのような起訴状の重大な瑕疵については法的安全の要請からこれを認めるべきものではないから右訂正の申立はいずれにせよ許さない。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺桂二)

(参考)起訴状

左記被告事件につき公訴を提起する

昭和三十三年七月十九日

福岡区検察庁

検察官事務取扱検事 羽田辰男

福岡地方裁判所御中

本籍 佐賀県佐賀郡富士村五百五十九番地

住居 福岡県粕屋郡宇美町上宇美

職業 無職 立石利雄

明治三十五年二月二十一日生

本籍 熊本県芦北郡佐敷町大字田川村千三百六十七番地

住居 福岡県粕屋郡須恵町大字新原斐三斗方

職業 無職 岩崎進

大正九年五月二十八日生

公訴事実

被告人両名は別表記載の如く共謀の上または単独にて、昭和三十三年一月下旬頃より同年六月三十日頃までの間前後六回に亘り粕屋郡宇美町三菱勝田炭坑宇美斜坑坑口外四ヶ所において矢野孝之外一名管理に係る鉄管等別表記載の物件を窃取したものである。

罪名並に罰条

窃盗 刑法第二百三十五条

(別表)(略)

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